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仙台地方裁判所 昭和39年(ワ)299号 判決 1965年8月20日

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の不動産につき仙台法務局昭和三九年四月二八日受付第一六、〇六五号をもつてなした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、別紙目録記載の不動産は原告の所有であるところ、これについて昭和三四年九月二八日訴外松川清を債権者とする債権元金極度額金一〇〇万円の根抵当権が設定されたとして仙台法務局同日受付第八、〇八五号をもつてその旨の登記がなされ、右根抵当権の実行として競売の申立があり、昭和三五年一一月一七日仙台地方裁判所においてこれが競売手続開始決定がなされ、その競売手続において被告がこれを競落し、仙台法務局昭和三九年四月二八日受付第一六、〇六五号をもつて競落許可決定を原因とするその所有権移転登記がなされた。

二、しかしながら、原告は松川清との間に前記根抵当権設定契約を締結したことがなく、前記根抵当権設定登記は原告の実弟訴外木戸巖が原告の印章を偽造行使してなしたものである。

三、よつて、前示根抵当権は成立せず、その実行としてなされた本件不動産競売手続は無効であり、本件不動産所有権は依然として原告に属するから、実体関係と符合させるために被告に対し前示所有権移転登記の抹消登記手続を求める。と述べ、被告主張の事実はすべて争う。原告は本件不動産について競売手続がなされていたことを当時知らなかつたものであある。と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因第一項の事実は認める。同第二項の事実中原告自ら根抵当権設定契約およびその登記手続をしたものではないことは認める。同第三項の事実は争う。と述べ。

一、本件根抵当権設定契約およびその登記手続は原告の代理人たる訴外木戸巖によつてなされたものであつて、その効果は原告に帰属するものである。すなわち、

(一)  原告は、昭和二五年頃仙台市から静岡県に転居するに際し、その母である訴外木戸まさみに対し、原告の実印を預けてその使用を任し、本件不動産を含む原告所有財産の管理処分を委任し、その代理権を与え、木戸まさみは木戸巖に対しさらにその代理権を与え、同人において原告の復代理人として前示各行為をなしたものである。

(二)  仮りにそうでないとしても、木戸巖は昭和二五年頃原告から直接代理権を与えられ、原告の代理人として前示各行為をなしたものである。

二、仮りに木戸巖が無権代理人として前示各行為をなしたものとしても、

(一)  原告は、昭和三六年五月原告所有の不動産に訴外佐治蔵次を抵当権者として抵当権を設定する際、木戸巖に対し本件無権代理行為を追認した。

(二)  仮りにそうでないとしても、原告は昭和三六年一〇月中旬頃松川清の代理人訴外佐藤国雄に対し本件無権代理行為を追認した。

三、仮りに以上の主張が認められないとしても、原告は本件根抵当権の実行としての不動産競売手続がなされていたことを知りながら、同手続において根抵当権設定契約同設定登記の無効等を理由とする異議の申立等をなさず、被告が右競売手続において本件不動産を競落してその所有権を取得した後にいたり突如として本訴を提起してこれらの無効なことを主張するのは権利の濫用であつて許されないものである。と述べた。

(立証省略)

理由

一、請求原因第一項の事実および本件不動産に右根抵当権を設定しその登記手続をなしたのが原告ではなく訴外木戸巖であることについて当事者間に争いがない。

二、被告主張の一、(一)の事実について。

証人菅原光太郎は右事実に添う証言をしているが、にわかに信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。もつとも、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、原告が昭和二五年仙台市から静岡県に転居するに際りその母親の木戸まさみに実印を預けた事実を認めることができるが、他に特段の事情の認められない本件においてはこれをもつて原告が木戸まさみに被告主張の代理権を与えたものと認めることは到底許されないものといわなければならない。かえつて、証人木戸まさみの証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、かかる事実のなかつたことを認めることができる。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被告の右主張はこれを採用することができない。

三、被告主張の一、(二)の事実について。

証人菅原光太郎、佐藤国雄、松川清、松川五郎は何れも右事実に添う証言をしているが、これらは証人木戸巖の証言(第一、二回)、原告本人尋問の結果(第一回)に照らしてたやすく信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠がないのみならず、右木戸巖証人、原告本人の各供述によれば、かかる事実のなかつたことを認めることができるから、被告の右主張はこれを採用することができない。

四、被告主張の二、(一)、(二)の各事実はこれを認めるに足りる証拠がないから、これを採用することができない。

五、被告主張の三の事実について。

原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば原告は本件競売手続の進行していることを知りながら同手続においてこれが異議等の申立をしなかつたことを認めることができるけれども、他に特段の事情の認められない本件においては、本訴の提起をもつて権利の濫用とすることはできないものとしなければならない。

六、よつて本件抵当権の設定は原告の意思にもとづかない無効なものというべきであるから、これが実行としてなされた競売手続において被告が本件不動産を競落してもその所有権を取得することはできず、原告はその所有権を失わなかつたものであり、その所有権者として被告に対し前示所有権移転登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

目録

仙台市原町苦竹字〓下中一五番の二

一、畑   四畝一〇歩

同所    同番の四

一、畑   一畝二六歩

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